日本で新しく仕事をはじめる外国人の皆様、そして彼らを温かくむかえ入れる企業の皆様へ。
日本で生活し、働くうえで、もっとも基本的で、かつ強力なルールが**「時間をまもること」**です。日本のビジネスシーンにおいて、時間は単なる数字ではありません。それは、お互いの信頼を測る「ものさし」であり、チームとして動くための「リズム」でもあります。
この記事では、日本の時間感覚の背景や、遅れそうなときの連絡方法、期限の守り方、そして企業がどのように外国人従業員に教えるべきかについて詳しく解説します。この記事を読めば、時間に関する不安が消え、日本での信頼関係がより強固なものになるはずです。
1. 日本の職場における「時間」の考え方

日本の企業では、1日のスケジュールが分単位で細かく管理されていることが少なくありません。「1分くらいならいいだろう」という考えは、日本では通用しないことが多いのです。
始業時間と「朝礼(ちょうれい)」
日本の多くの会社では、仕事がはじまる時間に**「朝礼(ちょうれい)」**が行われます。これは、単にあいさつを交わすだけの場ではありません。
- その日の仕事の流れを確認する。
- 安全上の注意点を共有する。
- チーム全員の顔色を見て、体調を確認し合う。 朝礼に参加できないことは、「その日のスタートラインに立っていない」とみなされることもあります。ですから、始業時間の5分前には準備を終えて待機しておくのが、日本の標準的なマナーです。
休憩時間のルール
昼休みなどの休憩時間も、時間は厳格です。たとえば「12時から1時まで」と決まっている場合、1時ちょうどには仕事に戻れる状態でなければなりません。1時になってからお弁当を片づけはじめるのは、日本では「遅刻」と同じように見られてしまうことがあります。
残業(ざんぎょう)との向き合い方
決められた時間(定時)を過ぎて働くことを「残業」と言います。日本では「ときどき、残業があります」という職場も多いです。時間をまもる文化があるからこそ、残業をする際も「今日はあと1時間だけ頑張ります」といった、終わりの時間の確認が重要になります。
2. 「遅れる」ことの重みと正しい対処法
日本では、たとえ1分や2分の遅れであっても、事前に連絡をすることが求められます。「黙って遅れる」ことは、相手の時間を奪い、信頼を裏切る行為とみなされるからです。
遅刻(ちこく)をしたとき、すべきこと
もし「電車が止まった」「道に迷った」「急に体調が悪くなった」という理由で遅れる場合は、わかった瞬間にすぐ連絡を入れましょう。
- 具体的な数字で伝える: 「少し遅れます」ではなく、**「10分くらい遅れます」**とはっきり時間を伝えます。
- 理由を短く伝える: 「電車が止まっています」「道が混んでいます」など、理由を簡潔に伝えます。
- おわびを伝える: 職場に着いたら、まず「遅れてすみませんでした」と一言伝えましょう。
「リスケ」のむずかしさを知る
予定を変えて別の日にすることを、ビジネス用語で「リスケ(リスケジュール)」と言います。日本では、一度決めた予定を動かすことは、参加する全員のスケジュールを合わせ直す必要があり、非常に大変な作業だと考えられています。ですから、一度決まった約束は、よほどのことがない限り守るのが基本です。
3. 「期限」をまもる:助詞の使い分けに注意
仕事において、書類の提出やタスクの完了といった「期限」を守ることは絶対です。ここで多くの外国人が間違いやすいのが、日本語の助詞の使い分けです。
「まで」と「までに」の違い
ここを間違えると、大きなトラブルにつながります。
| 表現 | 意味 | 例文 |
| まで(Until) | ある状態がずっと続くこと | 5時まで会議があります。 |
| までに(By) | その時が来る前に終わらせること | 金曜日までにレポートを出してください。 |
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「金曜日までに」と言われたら、金曜日が終わる前(できれば木曜日のうちや金曜日の朝)に出すのがベストです。金曜日を過ぎてから出すのはルール違反です。
「なるはや」という曖昧な言葉に注意
日本人がよく使う「なるはや(なるべく早く)」という言葉は、非常に曖昧(あいまい)です。
- ある人は「1時間以内」と思い、ある人は「今日中」と思います。 このような言葉を使われたときは、**「今日の午後3時まででいいですか?」**と、自分から具体的な時間を提案して確認しましょう。
4. 企業が「時間をまもること」を教える技術
外国人をやとう企業側は、単に「時間を守れ」と厳しく言うだけでは不十分です。なぜ時間が必要なのか、具体的な方法を**「やさしい日本語」**で伝える必要があります。
「ハサミの法則」で指示を出す
指示を出すときは、以下の3つを意識してください。
- は:はっきり言う。 (×「遅れないように」→ 〇「8時55分に 来てください」)
- さ:最後まで言う。 (×「時間、大丈夫?」→ 〇「時間は まもって ください」)
- み:短く言う。 (×「えーと、今日は忙しいから早めに来てね」→ 〇「明日は 8時に 来てください」)
24時間制と12時間制の併記
日本の職場では、シフト表などは「15:00」といった24時間制で書き、会話では「午後3時」といった12時間制を使うことが混在しています。これが混乱の元になります。 最初は、**「午後3時(15:00)」**のように、両方の数字を並べて教えてあげるのが親切です。
「理由」と「メリット」を説明する
「なぜ時間を守るのか?」という問いに対し、「日本の決まりだから」だけで終わらせないでください。
- 「時間を守ると、みんなが気持ちよく仕事ができます」
- 「時間を守ると、あなたは周りの人から信頼(しんらい)されます。信頼されると、仕事がしやすくなります」 このように、本人のメリットにつながる説明をすることで、納得感が高まります。
5. 円滑なコミュニケーションのための言い換え例

時間のやり取りで使われる難しい日本語を、外国人社員にも伝わる「やさしい日本語」に言い換える例をまとめました。
| 難しい日本語 | やさしい日本語 |
| 速やかに避難してください | 今すぐ 逃げてください |
| 少々お待ちください | 少し 待ってください |
| 終日運休です | 今日は 電車が 止まっています |
| 事前の申し込みが必要です | 〇月〇日までに 申し込んでください |
| 定刻通りに開始します | 決まった時間に はじめます |
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このような言い換えをリスト化して職場に貼っておくだけで、時間に関するトラブルは激減します。
6. 「5分前行動」という日本の魔法
日本には**「5分前行動」**という言葉があります。これは、「予定の5分前には到着し、準備を整えておく」という習慣です。
たとえば10時に打ち合わせがあるなら、10時ちょうどに部屋のドアを開けるのではなく、9時55分には部屋の前にいるのが理想です。この5分間の余裕が、落ち着いて仕事に取り組むための心の余裕を生みます。
外国人の方へ: 最初は「厳しすぎる」と感じるかもしれません。しかし、この「5分前行動」を1か月続けてみてください。周りの日本人の目つきが変わり、あなたを「プロフェッショナルな仲間」として認めてくれるようになります。
7. まとめ:時間は「信頼のパスポート」
日本で働く外国人にとって、時間を守ることは、言葉の壁を越えて「私はこの職場のルールを尊重し、真面目に働いています」という無言の証明になります。まさに、日本社会で生きていくための「信頼のパスポート」なのです。
- 外国人の方へ: 日本では、時間はみんなで共有する大切な財産(ざんさん)だと考えられています。カレンダーや時計をこまめにチェックし、迷ったら早めに行動する習慣を身につけましょう。
- 企業の皆様へ: 時間のルールは文化的な背景が大きいため、最初は戸惑う従業員もいます。怒る前に、具体的な数字と「やさしい日本語」を使って、根気強くルールを共有してください。
お互いに時間を尊重し合うことで、ストレスのない、最高のチームワークを築いていきましょう。
たとえ話:時間は「オーケストラのリズム」です
日本の職場は、みんなで一つの音楽を奏でる「オーケストラ」のようなものです。一人ひとりが素晴らしい楽器(技術)を持っていても、リズム(時間)がバラバラだと、美しい音楽にはなりません。 指揮者の合図(始業時間)に合わせて、みんなが同時に演奏をはじめるからこそ、素晴らしい仕事という音楽が生まれます。あなたもそのオーケストラの大切な一員です。一緒に正しいリズムを刻みましょう。
Q&A:よくある質問
Q:電車が遅れて遅刻しそうなとき、どうすればいいですか? A:駅の改札などで配っている「遅延証明書(ちえんしょうめいしょ)」をもらっておきましょう。そして、わかった時点ですぐに会社へ電話かメッセージを入れます。「電車が遅れています。15分くらい遅れます」と伝えれば、会社も安心します。
Q:プライベートの約束でも、5分前に行かなければなりませんか? A:仕事ほど厳しくはありませんが、やはり5分前、あるいは時間ぴったりに着くのが好まれます。もし遅れるなら、プライベートでも連絡をするのが日本のマナーです。
Q:仕事が早く終わったら、時間まで座っていればいいですか? A:もし自分の仕事が早く終わったら、上司に「仕事が終わりました。何か手伝うことはありますか?」と聞いてみましょう。時間を有効に使う姿勢は、とても高く評価されます。
この記事が、皆様の日本での生活をよりスムーズにし、信頼にあふれた職場環境を作る一助となることを願っています。
次の一歩として、明日の朝、**「いつもより5分早く」**家を出てみることから始めてみませんか。その5分が、あなたの1日を、そして日本での評価を劇的に変えるかもしれません。
