日本で働き、生活を始める外国人の方にとって、驚く習慣の一つに**「おみやげ(お土産)」**があります。旅行から帰ったときや、実家に帰省したあとに、職場のデスクにお菓子が並んでいる光景を目にしたことがあるかもしれません。
日本において、おみやげは単なる「物のプレゼント」以上の意味を持っています。それは、周囲の人への感謝を伝え、人間関係をスムーズにするための大切な「心遣い(こころづかい)」です。
本記事では、日本で働く外国人の皆さんと、雇用企業の担当者が共有しておくべき「おみやげ」の習慣、マナー、そしてその背景にある日本人の考え方について、3,000文字程度のボリュームで詳しく解説します。
1. 日本における「おみやげ」の意味:感謝と共有

日本社会において、おみやげの本質は**「自分の経験や感謝を周りの人と分かち合う」**ことにあります。これには大きく分けて2つの役割があります。
● 「お互い様」への感謝
日本では、誰かが休みを取って旅行へ行っている間、残ったチームのメンバーがその人の仕事をサポートします。おみやげには、「私が休んでいる間、仕事を代わってくれてありがとう」という感謝の気持ちが込められています。
● コミュニケーションのきっかけ
おみやげを配ることで、「どこへ行ったのですか?」「いいですね、おいしそうです」といった会話が生まれます。普段、仕事の話しかしない相手とも、おみやげを通じて自然に交流が深まり、チームの雰囲気が良くなります。
ポイント: おみやげは「高い物を買うこと」が目的ではありません。「あなたのことを忘れていませんでしたよ」という、相手を思う気持ち(配慮)が最も大切です。
2. 職場での「おみやげ」の選び方とマナー
職場でおみやげを配る際は、受け取る相手が困らないように、いくつかの暗黙のルールがあります。
● 「個包装(こほうそう)」のお菓子が最強
職場用のおみやげとして最も一般的なのは、お菓子です。特に以下の条件を満たすものが好まれます。
- 小分けにされている: 一つひとつ袋に入っている「個包装」タイプ。これなら、受け取った人が自分の好きなタイミングで食べることができ、配る際も衛生的です。
- 日持ちがする: 数日間は腐らないものを選びましょう。その日休んでいる人にも後で渡すことができます。
- 地域の特産品: その土地の名前が入ったものや、有名な食べ物を選ぶと「どこへ行ったか」が分かりやすく、会話が弾みます。
● 無理のない範囲で選ぶ
おみやげは決して強制ではありません。しかし、長期休暇をもらった際や、特に忙しい時期に休みを取った際などは、数百円から千円程度のお菓子があるだけで、休み明けの仕事が驚くほどスムーズに始められるようになります。
3. おみやげを渡す・もらう時の日本語(授受表現)
おみやげのやり取りには、相手への敬意を表す「授受表現(じゅじゅひょうげん)」が欠かせません。
● 渡すとき(あげる時)
「おみやげを あげます」と言うだけでなく、一言添えると丁寧です。
- 「これ、おみやげです。どうぞ。」
- 「週末、北海道へ行きました。みなさんで食べてください。」
● 受け取るとき(もらう時)
相手が自分のために買ってきてくれた(恩恵をくれた)ことに対して、「~て くれる」という気持ちを込めてお礼を言います。
- 「わあ、ありがとうございます!」
- 「〇〇へ行ったんですね、いいですね。いただきます。」
重要表現: 日本語では、自分がしたことには「~てあげた」、相手がしてくれたことには「~てくれた」を使い分けます。おみやげをもらった時は、「買ってきてくれて、ありがとうございます」と言うと、相手はとても嬉しく感じます。
4. お世話になった人への感謝(お礼のギフト)
旅行だけでなく、日常生活や職場で助けてもらったときにも、小さなおみやげやギフトが「感謝の印」になります。
● 恩恵への配慮と「すみません」
日本では、相手が自分のために手間や時間を割いてくれたとき、申し訳ないという気持ちを含めて「ありがとうございます」の代わりに「すみません」と言うことがあります。
- 例: 荷物を運んでもらったとき、重い物を代わりに持ってもらったときなど。 ギフトを渡す際も、「お忙しいのにすみません(ありがとうございます)」と添えるのが日本的なマナーです。
● 挨拶とセットで伝える
- 食事をご馳走になった後なら: 「ごちそうさまでした」
- 仕事で助けてもらった後なら: 「先日はありがとうございました(お世話になりました)」 これらの言葉と共に、ちょっとした飲み物やお菓子を渡すことで、相手との信頼関係はより強固になります。
5. 企業担当者が「おみやげ文化」を伝えるコツ

外国人従業員にとって、「なぜ自分の休みにお金を使って他人に物を買うのか」は不思議に感じる文化です。理由を「やさしい日本語(ハサミの法則)」で論理的に説明しましょう。
● ハサミの法則で伝える
- は:はっきり言う 「おみやげは、ありがとうの気持ちです。」
- さ:さいごまで言う 「あなたが 休んでいる間、他の人が 仕事をしました。だから、お菓子を あげます。」
- み:みじかく言う 「高いものは いりません。みんなで 分ける お菓子が いいです。」
● 「心理的安全」を作る指導
「おみやげを買ってこないのはダメだ」と教えるのではなく、「おみやげがあると、あなたが仕事に戻った時にみんながもっと優しくしてくれますよ」というメリットを伝えてください。
また、日本人従業員側にも、外国人からおみやげをもらった際には、いつも以上に明るく「ありがとう!」「どこへ行ったの?」と声をかけるよう促しましょう。この双方向のやり取りが、職場に安心感を生みます。
6. まとめ:おみやげは「心の潤滑油」
「おみやげを渡す」という行為は、日本社会における**「心の潤滑油(じゅんかつゆ)」**です。これがあることで、人間関係の摩擦(まさつ)が減り、チームが滑らかに動くようになります。
● 外国人の皆様へ
日本語が完璧である必要はありません。笑顔で「これ、おみやげです。どうぞ」と言って手渡すだけで、あなたの誠実さと、周囲を大切に思う気持ちは十分に伝わります。それは、あなたが日本で長く幸せに働くための、魔法のチケットになるでしょう。
● 企業の皆様へ
「おみやげ」という小さな習慣を、単なるプライベートな事柄として片付けないでください。それは「感謝を形にする」という日本の美しい文化です。背景にある「お互い様」の精神を丁寧に共有することで、従業員が孤立することなく、真の意味で職場に溶け込めるようになります。
おみやげを囲んで笑顔で話す時間が、多文化共生社会を支える温かい土台となります。
次にできること:おみやげの練習
次の休暇のあと、以下のことを試してみませんか?
- 地元の駅や空港で、1,000円くらいの「個包装のお菓子」を探してみる。
- 出勤したとき、一番近い席の人に「これ、おみやげです」と言って渡してみる。
- もらった人が「おいしい」と言ってくれたら、笑顔で「よかったです」と答える。
この小さなステップが、あなたと職場の仲間を強く結びつけます。
