日本の職場で働く際、実務スキルと同じくらい、あるいはそれ以上に重要視されるのが「勤怠(きんたい)」に関するマナーです。
その中でも最も基本的でありながら、絶対に疎かにしてはいけないルールが、**「休むときや遅れるときの連絡」**です。日本の企業文化では、一人ひとりの仕事がパズルのピースのように組み合わさっており、一人の欠勤や遅刻がチーム全体の進捗や安全に直接影響を与えると考えるからです。
1. なぜ「前もって連絡」が必要なのか

日本の組織において、情報は個人のものではなく「共有されるべき財産」です。自分の状況を周囲に正しく伝えることは、単なるマナーではなく「責任を持って仕事に取り組んでいる」という信頼の証です。
● 業務への影響を最小限にする
あなたが担当している仕事は、他の誰かの仕事につながっています。あなたが休むことで、同僚がその業務をカバーしたり、一日のスケジュールを組み替えたりする必要が出てきます。早めに連絡をすることで、チームは「代わりの計画」を立てることができ、混乱を防げます。
● 安全と安心の確認
連絡なしに休むこと(無断欠勤:むだんけっきん)は、日本の職場では非常に重大な問題です。会社の人たちは「事故に遭ったのではないか」「家で急病で動けなくなっているのではないか」と本気で心配します。警察や家族に連絡がいくような事態を避けるためにも、必ず本人からの連絡が必要です。
2. 連絡のタイミングと方法:いつ、どうやって?
休むことがわかったら、**「できるだけ早く(ASAP)」**連絡するのが鉄則です。
● 前日までにわかる場合
- 予定があるとき: 役所の手続き、ビザの更新、病院の予約など、あらかじめ休みが必要な場合は、数日前、遅くとも前日までに上司へ直接伝え、休暇届を出しましょう。
- 体調が悪いとき: 「明日の朝、熱が下がらなかったら休むかもしれない」という予兆があるなら、前日のうちに「明日は休むかもしれません」と一言伝えておくと、周囲も準備がしやすくなります。
● 当日の朝に決まった場合
突然の病気や怪我、電車の遅延などの場合は、**始業時間の前(多くの会社では10分〜30分前まで)**に必ず連絡を入れます。 始業時間を過ぎてからの連絡は、「無断欠勤と同じ」とみなされることもあるため注意してください。
● 連絡手段を事前に確認する
職場によってルールが異なります。
- 電話が必須: 直接声で状況を伝えるのが最も丁寧とされる職場(工場、建設現場、介護現場など)。
- チャットやメールでOK: IT企業や事務職など、スピード重視の職場。 入社したときに「休むときは、誰に、何で連絡すればいいですか?」と確認しておくことが大切です。
3. 「やさしい日本語」で理由を簡潔に伝える
日本語に慣れていないとき、電話で状況を説明するのは緊張するものです。そんな時は、**「ハサミの法則」**を思い出してください。
● ハサミの法則(はっきり・さいごまで・みじかく)
- は:はっきり言う 理由(熱がある、電車が止まった)を明確にします。
- さ:さいごまで言う 「休みます」「遅れます」と結論を最後まで言い切ります。
- み:みじかく言う 1つの文に情報を詰め込まないようにします。
【実践例文:体調不良で休む場合】
- 「おはようございます。〇〇(名前)です。」
- 「今朝から 熱があります。今日は 仕事を休みます。」
- 「明日の朝、また連絡します。すみません。」
このように、**「~ので(理由)+~ます(結論)」**というシンプルな構成で話せば、日本語の初心者でも正確に、誠実に状況を伝えられます。
4. 企業が教えるべき「有給休暇」のルール
外国人従業員にとって、日本の「有給休暇(ゆうきゅうきゅうか)」の仕組みは非常にわかりにくいものです。企業側から、以下のように「やさしい日本語」でメリットとルールを説明してあげてください。
● 有給休暇の説明例
- **「仕事を 休んでも、給料(お金)が もらえる 休みの日」**です。
- 日本で 6か月 以上 働くと、使うことが できます。
- 自分の 好きな 日に 休めます。でも、忙しい日は 避けてください。
- 休むときは、前もって(数日前までに) 会社に 言ってください。
「権利だからいつでも自由に休んでいい」という解釈と、「チームへの配慮」のバランスをセットで伝えることが、トラブルを防ぐ鍵となります。
5. トラブルを防ぐコミュニケーション術:企業と従業員の心得

● 婉曲表現(えんきょくひょうげん)を避ける
日本人は「今日はちょっと……」とぼかすことがありますが、これは多文化環境ではNGです。 外国人従業員には「行けるのか、行けないのか」の二択ではっきり答えてもらうよう指導しましょう。また、上司側も「厳しいですね」などの曖昧な言葉ではなく、「休んでもいいです」「今日は忙しいので来てください」とはっきり伝える必要があります。
● 「質問する権利」と「答える義務」
外国人従業員には、わからないことを**「質問する権利」があります。一方で、日本人従業員には、その質問に対して「やさしい日本語で答える義務」**があると考えてください。 休みの連絡が来た際、「どうして!?」と責めるのではなく、まずは「体にお気をつけて」「お大事に」という一言(クッション言葉)を添えることで、心理的な安心感が生まれ、その後の報告もスムーズになります。
● 視覚情報の活用(ユニバーサルデザイン)
連絡フロー(誰に、何時に、何で連絡するか)や、休暇届の書き方は、言葉だけで説明するのではなく、イラストや図解を入れたマニュアルを作成しておきましょう。 「熱が〇〇度以上なら休んでください」といった数値化されたルールも、判断の迷いをなくします。
6. まとめ:連絡は「お互いへの優しさ」
「休むときは、前もって連絡する」というルールを守ることは、単なる規則の遵守ではありません。それは、自分自身が職場で「信頼できる仲間」として認められ、長く安心して働き続けるための第一歩です。
- 外国人の方へ: 日本語が完璧でなくても大丈夫です。「ハサミの法則」を使って、**「はっきり・短く」**今の状況を伝えてください。その勇気が、あなたの信頼を守ります。
- 企業の方へ: 日本の「当たり前」を当たり前と思わず、イラストや具体的な例文を使って丁寧に説明してください。従業員が困ったときに、すぐに連絡しやすい雰囲気を作ること。その積み重ねが、強固な多文化共生社会の土台となります。
次にできること:職場でのルール確認
明日、職場で見直してみませんか?
- 「休みの連絡先」と「連絡する方法」が書かれた紙は、全員に見える場所にありますか?
- 外国人従業員が、有給休暇の残り(残日数)を自分で確認できるようになっていますか?
- 連絡をくれた従業員に、感謝や気遣いの言葉をかけられていますか?
こうした小さな確認が、より良い雇用関係を築く力になります。
